♯ 小春日和
午後になると陽射しが急にけだるげに見えるのはなんでだろうと、同じくけだるいぼんやりとした頭でネクは考えている。
それは一番高いところまで上って、あとはゆっくりと傾いていくだけの太陽だからかもしれないし、ただたんにようやくあたたまってきた気温のせいかもしれない。
結局こんなこと考えたって、答えは出ないんだよなぁと口元に手のひらを当てて大きくあくびをした。
「ちょっと、ネク君、僕の話はちゃんと聞いてた?」
「聞いてる、聞いてる。トイレに行ったけど水道が壊れてて、それで手が洗えなかったんだろ? 災難だったな」
「……君って、意外に根に持つタイプなんだねぇ……」
気をつけないと、とかヨシュアはぶつぶつと呟いている。
そんなヨシュアを見つめて俺は、ああ、ヨシュアがいる、という当たり前なことを噛みしめるように実感している。
もしかするとこのけだるい感じは俺自身のせいかもしれなかった。
あんなに会いたかったヨシュアが、探していたヨシュアが、今目の前にいて何かを話している。
それだけでこんなにも俺は気がゆるんでいて、なんだかこのままうとうとと、ヨシュアのしゃべる声を聞きながらでも眠ってしまえそうだ。
思うとまたあくびがでて、軽く涙で視界が緩む。
「ねむい……」
「ちょっと、ネク君? わざわざ僕が来てあげたって言うのにどうなのその態度は」
つり目がちの目を鋭くしてヨシュアが俺を睨んでいる。腕なんか組んでさ。
思いがけず子供っぽいしぐさに俺は小さく笑った。
「悪い」
ここは、羽狛さんのカフェで。
閉店したのかとさえ思ったこの店も、ヨシュアを見つけてヨシュアが俺のところにちょくちょく遊びに来るようになってからまた営業を始めるもんだから、羽狛さんもわかりやすい人だと思う。
マフラーが恋しい程度には寒い日だったのに、わざわざ外のテーブルでコーヒーを飲んでるのはそうヨシュアが望んだからだ。
天気がいいんだからさ、外に出ようよ、と。
寒いいやだといったのにヨシュアは羽狛さんに出されたふたつのカップを持ってさっさと外に出てしまう。
だから俺は今こうして寒さに震えながらも、それでも陽射しはあったかいなぁとか思いながらコーヒーを飲んでいるわけだ。断じて寒いのが好きとかそういう趣味ではない。
「まったく……」
ヨシュアも相変わらず不機嫌そうに曲げた唇をカップにつけてコーヒーを飲む。
その様子がまるで奇跡でも起きてるようにさえ感じられて俺はやっぱり小さく笑う。
今度は苦笑交じりに。
ああ、ヨシュアが好きだ。
なんて。
会えなくなってから初めて知って、そして今まで誰にも言わずに大切にしているこの気持ち。
誰にも言わない。
ヨシュアにも言わない。
この気持ちはまだ、俺だけのものだ。
今はまだこんな風にいっしょにいて、話をして、コーヒーを飲んで。
それだけで満足だ。
この気持ちを言葉にするときはきっと、現状に満足できなくなったとき。
そのときまではまだ、大事に抱えて秘密にしておく。
ヨシュアにもだ。
「ちょっと、何笑ってるのさ」
「ヨシュアだなーって」
「……熱でもあるのかい? 中に入る?」
「熱はないけど店の中のほうがいい」
こうして気遣ってくれるのがうれしくて、もうひとつ、あくびをかみ殺して俺はヨシュアの後に続いて店に入った。
090105