♯ Game×Game


あまりの暑さにおでこの汗を手の甲でぬぐいながら、アイス食べたいなと呟いてしまった。
ネクとしては呟いたつもりだったのだが、ヨシュアにはしっかり聞こえてしまったようだった。

「ネク君ってアイス好きだったっけ? 意外だね」
「別に。暑いだけだ」
「暑いとアイスなの? 結構単純だね」
「ほっとけよ」

言うんじゃなかった、とネクは後悔する。ヨシュアのしゃべり方はなぜかいちいち腹立たしい。

「じゃあ、サンシャインでも行く?」
「あそこはソフトクリームだろ? 俺はただのアイスが食べたいんだ」
「例えば?」
「コンビニとかで売ってるやつ」
「ああ。でも、コンビニには入れないよ」
「知ってるよ」

ああ、話してたら本当に食べたくなってきた。ネクは不愉快に表情を硬くする。
ヨシュアはどこまでも楽しそうだ。

「じゃあさ、僕がネク君のためにアイス手に入れてきてあげようか」
「は? 無理だろ」
「さあ、どうかな」
「無理。絶対無理」
「なんでそう言い切れるのさ。言っておくけど、僕に不可能はないんだよ? 何なら賭ける?」
「賭け? 例えば」
「そうだね。じゃあ無事僕がアイスをネク君に持ってこれたら、ネク君が何かひとつ僕の言うこと聞いてくれるとか」
「逆にお前が持ってこれなかったら、俺の言うことひとつ聞いてくれるとか?」
「そういう条件でもいいよ。制限時間決めてさ。うん、そうするとこれはゲームだね。どうする?」
「どうするって」
「やるの? やらないの?」

ネクはしばらく真面目な顔をして考えていたが、ふと息を吐き出して笑いを浮かべた。どこか人を馬鹿にしたような、諦めたような、もしくは気の抜けた笑みだった。
それは実はヨシュアにしか見せない笑い方だったが、あいにく本人に自覚はない。ただしヨシュアは知っていた。ネクはあごを上げて言い放つ。

「やる」

ヨシュアは笑みを深めた。目の奥が剣呑な色を帯びる。

「後悔しないでよ」





そして数分後。

「はい、ネク君。口開けて」
「……」

ネクは無表情で黙々とアイスを食べていた。正確に言えばヨシュアによって食べさせられていた。ヨシュアは本当に楽しそうだし、ネクは本当に嫌そうだった。差し出されたスプーンを淡々とくわえる。口の中の冷たさは心地良いが、何といってもすぐ近くに、それこそ密着しているといってもいいくらい近くにヨシュアが座っていて食べさせてくるものだから、暑いんだか涼しいんだかわからない。それ以前にヨシュアがこんなに近くにいるのも、これ以上ないというくらいに楽しそうなのも、満面の笑みでスプーンを差し出してくるのも、この状況の何もかもが気に入らなかった。
あまりに不機嫌すぎて無表情しか浮かべられないネクにせっせとアイスを食べさせるヨシュアは、不意にすくったアイスを自分の口に運んだ。
静かに眉間にしわを寄せたネクに、ヨシュアはスプーンを唇に当てたまま微笑んだ。

「僕に不可能はないんだよ?」

その微笑みは自信と確信に満ちている。
そんなわけあるか。
文句を言おうと口を開きかけたネクは、しかし否定する材料が思いつかずにため息をついた。

「はい、あーん」

ヨシュアはうきうきとスプーンを運んで、

「……」

ネクは黙々とアイスを食べていた。


*
こんな風に蒸し暑い日。

*****
ヨシュアのアイス入手法はどれでしょう?
1、そこらの死神とゲーム、勝って、パシリにした。
2、もちろん羽狛氏をパシリ……でなくまあ丁寧にお願いしてみた。
3、自分でRGに同調して買ってきた。
1の場合、パシリはテンホー君か卯月さんか南師かいいなぁ。

ネクが嫌がるのが楽しいヨシュア。



070831










♯ 殺人ごっこ


僕らは玩具の銃を手に、
……………………………………………………………。



「お前が俺を殺したんだろ!?」

この台詞は何度目だろうか。彼は口元に笑みを刻む。
目元が冷めているのは自覚していた。世界は面白くもなんともなく下らない。
それは目の前の子供だって同じだ。面白くもなんともない。ただし世界を拒絶するその頑なな姿勢には興味があった。それからわずかながら好意も。だから選んで、それだけだ。
いい加減うんざりと彼はため息をつく。子供は目の下のしわを深くする。
どうせ問いかけたところで答えなど返ってこないと、知っているはずなのにどうして繰り返すのだろうと彼はうんざりする。
答えてもよかったがまだ早い。
それは最後の楽しみにとっておかないと。
彼は前髪をいじりながら言う。

「だから、さぁ。だったらどうするの? 僕を殺してみる? いいよ別に、僕はそれでも。でもそれで困るのはネク君でしょう?」

彼に向けられる視線は苛烈だ。瞳の底に隠しようのない怒りが揺らいでいる。
しかし怒りの行方についての興味を不意に覚えて、彼は子供の目を見て笑ってみせた。
その笑みが子供には残酷に映る。

「ネク君は僕にどうしてほしいの」
「このっ、」

ぎり、と子供は奥歯を軋ませ片手で彼の胸ぐらを掴んだ。もう片方の手で固く拳を握って、

「……っ」

けれど、振り下ろしはしなかった。
彼はそれを内心つまらなく見つめる。
子供は歯を食いしばり目の底に怒りを揺らがせて近づいた彼の顔を睨みつける。
子供の顔は歪んでいた。笑い出す寸前のようでも、苛立っているようでも、泣きそうでもあった。
彼はすう、と目を細める。

「殴りたいの、殺したいの。ネク君は一体何がしたいの」

そして子供の胸元を、突き飛ばすと同時に足を払った。
抵抗する間もなく子供は仰向けに倒れる。
地面に叩きつけられて、嫌な音の咳を一度した。
彼はその体の上に、両手で子供の両肩を押さえつけて馬乗りになる。怯んだのか子供の視線が揺らいだ。それでもはねのけようともがきはするが、息が上がるばかりで敵わない。
ぐい、と彼は顔を近づけて笑う。子供は息を飲む。

「殴るならちゃんと殴らないと。殺すなら、ちゃんと殺してくれないと。例えばそう、こんな風に……」

肩に乗っていた手がじわじわと動き、彼の指先が子供の首に絡みつく。引きつった声が咽からもれる。
彼は酔った口調で、子供の耳に唇を寄せて囁いた。

「大丈夫。殺さないよ。だって僕、ネク君好きだもの」
「……」
「かわりにさ、キスしていい?」
「……へ?」

間の抜けた返事をさえぎるように彼は子供の唇を塞いだ。

「――!! ぅぁああ!!」

子供の目が見開かれて、どこにそんな力があったのか彼を突き飛ばして抜け出して、物凄いスピードで立ち上がらずににじり下がった。そばにあった壁にへばりつく。

「……ったいなぁ、もう」

突き飛ばされた彼は腰をさすりながら立ち上がる。子供は座り込んだまま肩で大きく息をして、彼を指差して口をぱくぱくと動かすものの、声にならない。
彼は服を叩いて埃を払う。

「ネク君って案外乱暴なんだね」
「ふざけんなぁ!!」

何とかそれだけ言って、子供は、がっくりと肩を落とした。どんよりとしたオーラをまとって何事かをぶつぶつと呟きだす。放っておけば地面にのの字でも書き出しそうな勢いだった。そんなにショックだったかと彼は呆れる。
キスのひとつやふたつで何を。

「ネク君って……器も小さいんだね」
「ふざけんな」
「でもね」

彼はにっこりと微笑んで言った。

「そんなネク君が、僕は好きだよ」

子供は真っ直ぐに彼を見た。口元はかたく引き結ばれている。子供はゆっくりと立ち上がる。
彼をきっ、と睨みつけてみたけれど、微笑みは消えなかった。
どちらも、何も言わない時間が流れる。
緊張に軋むような長い沈黙の後、先に視線を外したのは子供の方だった。うつむいて、ぽつり、呟く。

「お前は、」

その声は悲しみと諦めに沈んでいた。

「お前は……世界を見下してるよな」

それを聞いたとき、彼は知らずに息を詰めた。表情が固まる。
それには気付かずに、子供はうつむいたまま続けた。

「どうせ、俺のことだって、同じように思ってるんだろ。――パートナーは信じたいけど、お前のことも信じるけど、でも、」

子供は体の両脇で、拳をかたく握っている。

「お前の“好き”は、きっと嘘だ」

信じられるわけがないんだと、子供はうわごとのように呟いた。
もはや彼の顔に微笑みはなかった。
何の表情も作れずに、子供を眺める。

「そうかもね。……そうかもしれないね」

掠れた声はどこにも届かない。
胸には痛いような感覚。
この感情の名前を、彼はまだ、知らない。
ただ、うつむく子供を眺めながら、彼は右手に拳銃の感触を思い出していた。





***
……………………………………………………………、
いつかくる訣別の日の為に。


*
こらえない抑えない(欲望と衝動と)。

*****
満足とまではいかずとも少しだけすっきり。
『僕らは玩具の銃を手に』、
『拳をかたく握ってだけど誰にも振り下ろせはしない』、
には元ネタというか出典があります。
(わかった方、ぜひお友達に!)
(特にふたつめ。大っっっ好き! なんです!)



070904