♯ やる気と勇気
強い陽射しが降ってきて、足元で濃く影がたまる。
ネクは猫背気味に立っている。場所はスクランブル交差点。
こうも暑くてはなんていうかやる気も出ない。いや出すけど。でもミッションもまだこないこの状況じゃ、気持ちがだれてくるのも仕方ないんじゃないかとネクは思う。
なんていうか、ともかく暑い。
手の甲で額の汗をぬぐってみたりする。
暑い。
ふう、ととなりでため息をつく音がする。
「あっついねぇ、ネク君」
「よく言うよ」
ネクは横目でじろりとにらみ、ラパンのカサをさすヨシュアにぼそりと呟いた。
ヨシュアは今、全身ラパンの服できめている。どうしてそんな服が着れるのかがネクにはわからない。デザインもそうだが、何より黒くて暑い。のに、ヨシュアは涼しげに微笑んでいる。
一瞬ヨシュアの着てるパーカーの、ウサギの耳の形をした部分を引っ張って、喉をぐえとかやってやろうかな、とか、よくわからない考えが浮かんでネクは自分自身に目眩を覚える。
というか、ぐえ、とかなってるこいつなんか想像できないし。
なんだかんだで平然としてそうだし。
暑さのせいか思考が散漫になっていく。
コメントしづらいデザインの黒い傘の下、ヨシュアはずっと優雅に微笑んでいる。
「うらやましいの?」
「何が」
「いっしょにはいる?」
「誰が」
汗がたまっては背中を流れていく。
とにかく早くミッション来ないかな。
まさかあの死神、あんまり暑いからってどこかでのんびり涼んでたりしないよな。
してたら俺何するかわかんないな。
とりあえずこいつ、平然としててもいいけど、そしたらムカつくけど、それでも耳ひっぱってやりたいな。
いよいよ思考はだらだらとよくわからない方向へ流れていく。
「そもそもさ、ネク君はこの格好の僕を見て何も思わないわけ?」
「何を」
「ウサ耳とか。どうだい? 完璧に似合ってると思うんだけど」
「変人みたいだ」
「ひどいねネク君。もっと素直にほめてくれてもいいのに」
「お前はもっとわかる言葉でしゃべってくれればいいのに」
「……」
ヨシュアは黙り込んで、口元に人差し指の関節を当てて何かをぶつぶつと呟いている。
ネクはどうせ自分に対する文句でも言ってるんだろうな、と予想して、放っておくことにする。
ふらりと空を仰げば、鮮烈な陽射しに目がくらむ。
「早くミッションこないかな……」
「ねえネク君。やっぱりさっきの発言はどうかと思うんだけど」
「あー……?」
「ってネク君? やる気ある?」
「ない……」
今日はまだ、始まったばかり。
*
ゼタさんがサボってたその頃、ふたりは、
*****
たまには絶句するヨッシーが書きたかったんです。
ラパンルックなヨッシーとか。一度は書いとかないと!
とりあえずラパンルックなヨッシーは勇気あふるる少年です(にっこり)。
070819
♯ ごめん、おやすみまた明日
目の前で倒れていく少年に手を伸ばした理由を、彼は未だ見つけられないでいる。
ミッションの終わりに倒れて眠りに落ちていく参加者を見るたびに、ヨシュアの口元には冷たい笑みが浮かぶ。
それはネクとパートナーになってからでも同じだった。
いつでもその瞬間、冷たい感情に支配される。
どうせ自分は眠れない。
眠りなど訪れるはずもないのだ。
自分だけは、いつでもひとりだ。
だからいつもなら、眠るネクを放っておいて、日付が進み場所が変わるのを待っていたはずなのに。
これは何の気まぐれだろうか。
ヨシュアは自分自身でわからないでいる。いつもネクにやって見せるように、わざとらしく首を傾げてみたりなんかして。
「おまえのせいだろ!!」
真っ直ぐに、ネクは怒鳴っていた。
ヨシュアが驚いたのは確かだ。
そんなに真っ直ぐに感情をぶつけてくるなんて、思ってもいなかったから。
どちらかといえば、摩擦を嫌って衝突を恐れて。
ヨシュアはネクのことをそう思っていたのに。
「おまえが俺を殺したくせに」
激しい怒りと感情の波を、とりつくろいもせずにそのままぶつけてくるなんて。
向けられた瞳の奥は、低い温度で燃える炎。
何と言ってこの場を収めようか、それともこのまま彼をかき回してやろうか。
ヨシュアが面倒臭さとわずかな興味の中で考えていたとき、ネクは突然目を閉じ、意識を失った。
倒れていく体に、気付けばその腕を掴んで支えていた。
何をやっているのだろう。
わからないまま、ヨシュアはただの気まぐれと信じて、ネクを抱きかかえて、丁寧に道のはじに寝かせてやったりする。
何をやっているのだろう。
いつものように、放っておけばいいのに。
不意に全てが揺らぐ。
こんなの初めてだ。
こいつのせいだ。
らしくなく真っ直ぐに僕を見てきて、それで真っ直ぐに怒ったりするから。
僕の予想の外側から、睨んできたりするものだから。
殺したと、口にしたときの瞳の色が忘れられない。
どうせなら気まぐれを続けようと、ヨシュアはネクの傍らに膝をつき頬に爪を滑らせる。
彼が起きているときにこんなことをしようものなら、過剰なまでの拒絶を受けるのだろうな、と、想像しては口元を笑みの形にする。
気まぐれを続けよう。
心にもないことを言うよ。
「ごめんね」
胸には何の感情もわかない。
滑稽さに腹の底にくすぐったさが生まれる。
しかし浮かんだ表情は苦笑だった。
それにヨシュアは気付けない。
「ごめんね、僕、ちっとも悪いことしたって思えない」
どこかからカウントが聞こえる気がする。
移動が近いのかもしれない。
ネクの頬をなでながら、ヨシュアは目を閉じる。
時計は回り場所は変わる。
日付を越えて、明日の君に会いに行こう。
「たまには、いっしょにいてもいいよね」
ヨシュアはネクの手を握る。
どうせ、僕は眠れない。
どうせ明日も君が起きるのを待つんだろうけど。
「おやすみ」
だから気まぐれは、これでお終い。
*
2回目のゲーム5日目。
(絶えず変わり続ける)
*****
ゲームクリアで白い部屋とかに勝手に召喚されるくらいだから、毎日の場所移動も白い光で瞬間移動でしょうか。
でも別に、したっぱ死神がぶつくさ文句言いながら担いで運んでてもいい気がします。
なんかたのしい。
070822