♯ 放課後前
(アナザーデイで学パロ)

さよならを言おうとすれば胸が痛くて、いつからだろう、その感覚を、大事にしまい込むように、大切に確かめるように、楽しみ始めたのは。

チャイム。ふわりと弛緩する空気、あちこちでこそりと、あるいは大袈裟に吐き出される溜め息。教科書が机を叩く。ばらばらと動く足音に好き勝手に騒ぎ出す話し声。
そのうち、教室の引き戸が開くんだ。先生が何かを言っている。僕は相変わらず、チャイムが鳴る前からずっと同じ姿勢でそれを聞く。
机の上に組んだ腕に頭をのせて、突っ伏して。閉じた視界は暗闇で、だけど、音が聞こえてる。
そしてそのまま号令を聞いた。がたがた、椅子が鳴って足音が騒ぐ。
僕は動かない。まだ。まだまだ。じっくりと、海の底に沈むようにゆっくりと、沈む様をイメージして、突っ伏したまま動かない。

「おい」

うん。

「帰るぞ」

……うん。

この声を知っている。この人の声を、知っている。
ぎゅう、と縮み込むような胸の痛みに合わせて強く目を摘むって、開いた。
笑ってほしい。
呆れたように、やさしくされたい。
わざとゆるゆると体を起こして、遅れて机の側に立つ人を見た。
ネク君の、ちょっとだけ不機嫌そうな、それでもこうして待っててくれた、やさしい顔をじっと見上げる。
そして、ぼんやりと見つめているうち、ふ、とネク君が口の端から息を漏らして、笑う。

「ねぼすけ。お前どれだけ寝てんだよ」

きゅっと少し上を向いて目を閉じた。すぐ、開く。
帰る支度ならもうできている。
机のわきにかけた鞄を持って、椅子を立つ。

「失礼だな」

笑い返して教室を出る。
やれやれ、と溜め息をついたネク君は僕の望んだ通り、呆れたように笑って僕のとなりに並ぶ。
ネク君は勘違いしてるみたいだけどね、別に僕、いつも寝てるわけじゃないんだからね、と言う。嘘だ、とすぐに返される。このテンポが心地良い。
ほんとうだよ。どうだか。
そんなやりとりを繰り返して、話題はどんどんずれていく。
昇降口を抜けて校門を通る頃には、二週間後に迫る期末試験、その後の夏休みの予定に話はシフトして行き、同じ話題には帰らない。


やがて曲がり道。分岐点。
今日は壁グラに寄って行くと言うネク君と、真っ直ぐに帰らなきゃ行けない僕と。
バイト、とネク君には話している。あながち嘘でもない、僕にしか出来ない、僕だけのお仕事。
この後僕は、君の大好きな羽狛さんに会いに行くんだよ、と言ったら、君はどんな顔するのかな。
想像だけで楽しくて、だからまだ、試してみたことはない。
ネク君の羽狛さん好きと言うか、CAT好きと言うか、には、時々嫉妬してしまう。
これくらいの意地悪は権利のうちだろう、とは、これも秘密だ。

「じゃあね、」
「うん、またな」

ひらひらと手を振る。君は軽く手をあげて見せて、一度鞄を肩に背負いなおしてから歩いてく。
後ろ姿に痛みを覚えて、それを大事にしまい込むように、大切に確かめるように、ゆっくりと、振った手をおろして握りしめた。


*****
学パロっていいな。
個人的に中学生は学ラン、高校生ならブレザー希望。
そして夏服が好き。ワイシャツの白さとか。
しかし学校指定のみんな同じコートとかも好きなので、とにかく学パロっていいなって話。



080520










♯ 君のかたち君のおと
(アナザーデイで学パロ)

好きとか嫌いとか気に食わないとか気になるとか。
ずっと前からそうなのだ。だいぶ前から、そんなごちゃごちゃした感情がそのままごちゃごちゃと心の中に、ひた隠しにして詰め込まれていて、ふわふわと現実感すら遠い心地で、ぎゅうぎゅうと胸が痛かった。
隠し通したかったのは、気付かれたら弱くなると信じていたから。暴かれてしまったらと、考えただけで狂いそうだった。
それでも隠しきれるものじゃなくて。だってどんどん膨らんで、押し込むどころか内側から胸を圧迫して、今にも破裂しそうな感じで。

「嫌いだ」

だからそう告げてすぐに

「好きだ」

もう自分でもなんだか分からない、当然相手もそうだろう。
嫌いだと告げたときにきゅっと眉を下げた。
好きだと伝えたときにぱっと俺を見た。
そのどちらの表情にも好きが溢れていく。
怖いという感情が今、どうしようもなく遠かった。



黄昏の街を覚えている。相手の表情も伺えない程度に仄暗く、相手の瞳の色が見える程度に仄明るく。
風が吹けば壊れてしまっただろう。そんな静かで危うい時間を共有して、互いが互い、思ったことを取り繕って、相手の思考を探りあった。
じれったくて先に動いたのは自分だ。
その危うい均衡を崩してそれでも手を伸ばす。
渇望していた、飢えていた、感情と欲求に任せて全てに目をつむった。
ぴくり、相手の肩が揺れる。
拒まれたら諦めようと決めて、どうかどうかと苦しく切望した。
どうか。
なんだか泣きそうだ。
相手は、それでも動かず一歩も退かず、真っ直ぐに自分を見つめてなんだか難しい顔をしている。
追い詰めるように肩を抱いた。そのまま腕を背中に回して、そのまま全てを抱きこんだ。
同じくらいの背丈だ。それでも小さく感じるのはどうしてだろう。歯止めが聞かなくなりそうで、自分自身をなだめるように、大切に大切に抱き締めた。
吐き出した息が震えていた。
吸い込んだ空気にどこか甘い体臭が混ざる。
震える呼吸をなだめながら見た、黄昏の街を覚えている。
響く相手の心音を、体中で聞いていた。



「君は、きっと後悔するよ」

俺はこんなに悲しい音を知らない。

「いつか必ず傷付くんだ」

日は暮れる。風が吹かなくても時間は過ぎる。止められない。それは誰にも止められないんだ。

「そしていつか僕をおいていくんだ」

だから、

「傷付くだけだから、だから、」
「いいんだ」

止められないんだ、この気持ちは。
俺にも、もちろんお前にも。

「俺はお前といたいから、だから、」

いいんだ、傷付けてくれて。



どうしようもない感情の波に、泣きたくなるのは何でだろう。
悲しくて哀しくて堪らなくて、好きで好きで壊れそうだ。
この痛みを大切に守りながらふたりでいたい。
この願いをどうか叶えてほしい。



抱き締めた体が震えていた。
たまらない気持ちで目を閉じて俺は、黄昏の色を焼き付ける。
次の場面は二人で迎えたい。
だから頷いてくれるまでは、俺はこの目を開かない。
きっとそっと日が暮れる。
きっと必ず夜は来る。
晴れた星空なら二人で見よう。暗い夜空なら二人で帰ろう。
さようなら、さようなら、さようなら、さようなら。
黄昏の街に別れをうたい、次の場面を思い浮かべた。



体中で、相手の心音を聴いていた。


*****
いい加減飽きてきたかもしれませんがまだまだ学パロです。
夕焼け空に制服はよく似合う。
といいつつ、想像の中では夏服で白いしワイシャツ。制服……制服。

はっきりと意識して胸を張って、これは音義です。



080531