♯ 言葉にしないと逃げてしまうよ


「それで。ネク君はその子のことが好きなの?」

思わず、ネクは飲んでいた珈琲をふきそうになった。
かろうじてそれだけはこらえたが、かわりに変なところに入ってしまったらしくてひどく苦しい。咳を繰り返す。
どうした風邪かぁ、とか何とか言いながら、羽狛が水を持ってきてくれた。咳が収まる頃にはネクは意味もなく消耗していて、ヨシュアはその様子を面白そうに見ている。その悠々とした態度にネクは、我慢せずにこいつにかけてやればよかったと思わずにはいられない。
睨んでみたが、ヨシュアは構わずにいつもの微笑みで訊いてくる。

「で、どうなの」
「なにが」
「だからさ、前回のパートナーの子のこと。今回のネク君のエントリー料なんでしょ? そんなに大事?」
「お前昨日俺の話聞いてなかったんじゃないのかよ」
「『俺はゲームに勝たなきゃいけない』、までは聞いたよ」
「そんなことは言ってない」
「あれ、そうだっけ?」

わざとらしいくらい意外そうな表情をヨシュアはする。
相変わらず、コイツは信用できないとネクは思う。

「で? どうなの?」

そのうえしつこい。
ネクは溜め息をつく。

「別に」
「別に、ってことはないでしょ。それとも何、照れてるの?」
「違う。あいつは前回のパートナーだったんだ。それだけだ」
「……ふぅん。まあ、それでもいいけどね」

ふっと、ヨシュアが真っ直ぐにネクを見た。そのいつもとは違う雰囲気にネクは簡単にのまれる。のまれている自分を意識する。
なんだ、なんだこれ。見透かされているような気分になって、ネクは居心地が悪くなる。同時に、わずかばかりの恐怖。逃れようのない支配力に似たものを感じる。
ごまかすために、珈琲を一気に飲んだ。ヨシュアは視線を外さない。

「あのね、ネク君。言葉にしないと、何もかも逃げてしまうんだよ」
「……何?」
「ちゃんと話さないと伝わらないんだ、ってことかな」

足を組んで、テーブルの対面にヨシュアは座っている。向かい合うにはちょうど良い距離だろうが、ネクはこの場を離れたくて仕方がない。
しかしヨシュアがいつもの笑みを口元にのせれば、張りつめた空気は嘘のように霧散して、ネクは知らずに止めていた息をゆるゆると吐き出した。
ヨシュアは、のんびりと珈琲を揺らしている。

「じゃあ、今回ネク君のパートナーは僕なんだから、次回のゲームには僕をエントリー料にしてね。大事に思ってくれないと、僕繊細だからぐれちゃうかも」

ふふふ、と実に楽しそうな調子でヨシュアは言う。
結局それが言いたかっただけかよ。
ネクは溜め息をこらえ、空っぽになったカップを見つめた。

「それで、ちゃんと言葉にしてね」

対してヨシュアは、まるで歌うように呟いた。


*
二回目のゲーム、3日目くらい。

*****
ただいま暗中模索中。
必要なのは慣れと愛とイメージ!(かもね)

ヨシュアは子供ライフエンジョイしてるといいです。
きっと途中で、緊張しているネクを見て羽さんは内心あーあとか思ってる。
(子供相手になにやってんだ)



070810










♯ 心配症


ぐらり、傾いだ体を支えられるはずなかった。
倒れたと、認識した後だって、ネクはしばらく動けなかった。

「おい、」

ノイズとの戦闘が終わって、UGに帰ってきて。それから。
すぐ近くで、音がして。
そこにヨシュアが倒れていて。

「おい、……」

そっとヨシュアの肩に触れて、ネクは慌てて手を引っ込めた。心臓が一度高く鳴った。
ヨシュアの体はひどく冷たかった。
そのくせ全身にじっとりと汗をかいている。
ちょっと休もうか、と戦闘の途中に言っていた。いつもの冗談交じりの発言かと思っていたのだ、そのときは。
その結果が、これだなんて。
ネクは混乱する頭で必死に冷静になれと繰り返す。
早い鼓動に急かされる。気持ちが悪い。頭がぐらぐらと揺れる。
ネクはそれでも、とりあえずヨシュアのわきに手を差し入れて、肩を貸すようにして立ち上がらせる。
たいして背の高さも変わらないはずのヨシュアの体重が、嫌に重く感じられて、ネクは罪悪感にかられる。
交差点の真ん中で立ち尽くす。これから、どうしたらいい?

「ごめん」

ネクはくじけそうな気持ちで、ただそれだけを呟いた。



「おーい、入るぞー」

ドアをノックして、ついでに一声そえて羽狛が部屋に入ると、なぜかベッドに寝ていたのはネクのほうで、ヨシュアがそばの椅子に座っていた。視線はネクの寝顔に注がれている。
そんなヨシュアの表情はいつになく和らいだものだったから、羽狛は何となく次の発言に困った。

「あー、なんていうか、その、な」

そういうの、趣味悪いっていいませんか。
なんて言ったら、それは楽しそうにヨシュアが笑うものだからますます困る。

「ていうか、体調悪かったんじゃないんですか?」
「うん。でも、ネク君が必死になってくれたからなおった」
「そういうの、性格悪いっていうんですよ」
「だってネク君、なぜだか僕にひどいんだもの」

ちょっと意地悪したくなっちゃって、とヨシュアはうそぶく。その間も、視線はずっとベッドの上だ。
羽狛はため息をつく。
そしてわずかだけれども、同情をベッドの上の少年へ。

「とりあえず、寝たらどうですか? 疲れてるのは本当でしょう」
「まあ、確かにね」

ソファーなら向こうの部屋にありますよ、と羽狛が言えば、ベッドがいいとヨシュアがごねる。
でもベッドはそれ一個でと答えると、じゃあいっしょに寝るからいいよとヨシュアは、羽狛が止める間もなくベッドにもぐりこんだ。

「……ま、子供二人なら平気かもしれませんけどね。狭いでしょう」
「平気だよ」

ヨシュアは子供そのものの表情で笑うから、羽狛は苦笑するしかない。

「ネクに何言われたって、俺は知りませんからね」
「うん、覚悟しとくよ」

そうしてヨシュアも目を閉じたのを確認して、羽狛は静かに部屋のドアを閉めた。


*
二回目のゲーム、5日目くらい?
時間軸はあまり気にしない方向で行きましょう。

*****
羽狛さん的、あーあ、二回目。
子供相手に何やってんだ。

そんなこんなで、なぜかヨッシーと共に羽さんも出てくるという罠。
ついでに丁寧語させてみた(ただの趣味です)。
でも敬語の理由は知りたいところ。



070813