♯ 影はふたつ細く並ぶ(ビイトとライム)


宮下公園に来たのはただ、それ以外に行くところがなかったからだ。
それにビイトは、スケボーひとつ持っているだけで受け入れられるこの空間が、嫌いではなかった。
夕暮れのこの時間帯、公園にはそれなりに人がいて、みなそれぞれにスケボーでトリックに挑戦している。
ビイトは適当な地面に座り込んで、何をするでもなくそれを見ている。
家には帰りたくない。
それだけをどこかぼんやりと思って、無為に時間を過ごす。
無駄な時間だとビイトも感じている。
けれど、それじゃあどうしたらいいのか。
ぐるぐると考えても答えは出ない。堂々巡りに嫌気がさし苛立ちは募る。
その間にも時間は過ぎる。
答えは出ない。
何をすればいい。何をしたらいい。
なあ、誰か。
誰でもいいから誰か。
――教えてほしい。
このままじゃ、辛い。
何が辛いかもわからないけど、とにかく。
誰か。

「やっぱり、ここにいたんだね」

ぐるぐるとめぐる、どうしようもない思考を断ち切るように、声。
すう、と息が楽になった。気がした。
ビイトはとなりを見る。

「お兄ちゃん、ここ、好きだもんね」

予想通りの笑顔で、ライムはそこにいた。夕方の風が吹く。自分と同じ色の髪が揺れた。
ここ、いい? とライムが聞いて、けれどもビイトは答えずに視線を外した。
きっと、ライムは悲しそうな顔をしたはずだ。わかっている。わかっていた。
でも何も言わなかった。

「ごめんね」

風に紛れるようにそっと、そっとライムが呟いた。ビイトにはそれが届いた。となりにライムが座る気配。ビイトは空を仰ぐ。赤い。夕方の空。風がたまに吹いて、ライムはわずかに身じろぐ。
夏と呼ぶにはまだ早いこの季節。確かに風は、涼しいを通り越して寒いかもしれない。
ため息を、ひとつ。それで、心を決める。
ビイトはライムの手をとり立ち上がる。
ライムが不思議そうに見てくるから、ビイトはやっぱり視線を外す。

「帰るぞ」

それだけを告げ、片手にスケボーを抱え、片手でライムの手を引いて歩き出す。

「うん」

握った手は冷たかった。振り返ると、ライムがうれしそうに笑っている。

「お兄ちゃんの手は、あったかいね」

その後ろで、影がふたつ並んでいた。繋いだ手も黒い影になって、ゆらりゆらりと揺れていた。


*
いつでも、いつだって俺は、救われていたというのに。
うっとうしく感じてたなんて、そんな、そんな。
(後悔はいつも決まって遅すぎて)

*****
互いに依存と、ほんの少しの罪悪感を持たせてみたい。
この二人、兄妹だとしても好きです。


070813










♯ 境界の攻防(ネクとシキ)


「どうしてそんなに人を拒むの」

その言葉には、どうしようもなく泣きたい気配が含まれている。
それなのに、ああ。
そこまで思うのに、どうしても泣くことができないのは、その理由は。

「俺はただ怖がってるだけなんだ」

人と深くかかわることを。
それで、自分が、傷付くことを。
目をそらす。
そうだ、他人は怖い。
平気な顔をして、何食わぬ顔をして、俺の世界に踏み込んでくる。覗き込んでくる。干渉してくる。
どうしてそんなことができるのかが俺にはわからない。
俺は、俺の世界でひとりでいたい。
誰からも干渉されず、誰にも干渉しない、そんな世界が理想だ。
境界をまたぐな。
曖昧にしないでくれ。
だから。

「だから、お前は要らない」

俺の弱みに、なってくれるな。
言葉がこぼれて沈黙が生まれる。
振り払うように、でも、と相手の唇が繋げる。

「そんなの、悲しすぎるよ」

胸が痛んだ気がしたから、相手の顔を見たんだ。
そしたら俺以上に痛いような顔をしてたから。
思わず。

「でも、そう思うのはお前の勝手だろ?」

言った。
息をのむ音。気配。一変する空気。
ああ、だから。
こういうのが嫌だから、だから、他人は要らないのに。

「これ以上構うなよ」

そして俺はただ目をそらして、自分の起こした結果からひたすらに目をそらして、眠りに落ちるのを待っている。


*****
わかりあいたい(わかりあえない)。
そんなすれ違いな二人。



070813