なんかあったのか。
と、メールで聞いちまうのが一番手っ取り早くて簡単なんだろな。それくらい俺でもわかってるに決まってんだろ。
でもなんだかその一言を送信するのにためらって結局時間ばかり過ぎる。
「大体、なんで俺がそんなことで悩んでんだよ」
思わず独り言を言ってしまって、部屋にはひとりだったから当然だけど誰も答えないし反応ないしでますますいたたまれなくなる。
「だぁぁぁぁ」
ベッドの上で、ケータイをそばに放って頭を抱えてみたり。ただのモーションだけどな。
大体何が悪いって、突然誘ってくるネクが悪い。そうだ、あのヘッドフォンが全部悪い。最近じゃヘッドフォンを外してるからヘッドフォンって言う呼び名はどうかと思うけど。でもまだ首からさげたままでいるから、あだ名として通用するとは思う。同じ学校じゃなくて残念だ。同じ学校だったら、しつこくヘッドフォンと呼び続けてそのあだ名を定着させてやるのに。
いやそんなこたどうでもいいんだよ。
問題はネクだ。なんで突然ネクから集まろうって誘うのか。なんかあるのか。それともただの気まぐれか? でもあいつってそんなキャラだったか? 自分から率先して人を集めるような。違う気がする。
いつもは、その役割はシキだ。シキはけっこうまめにみんなで集まろうと呼びかけてくれる。別に俺から呼びかけたっていいんだけど、シキのタイミングがいいものだからすっかりその役目を俺もライムもシキに任せきりにしてる感じだ。代わりに、誘われればよほどのことがない限りは応えるようにしてる。
ネクだってそうなのかと思ってたのに。
「だぁぁ、もう」
どうしたものか。気付けば日付が変わっている。
なんかあったのか。だから呼ぶのか?
それとも本当に気まぐれか? キャラが変わったのか? 例えばもっと社交的な……いや、あいつに限って、それはないか。
ぶんぶんと首を振って否定しつつも根本的な解決にはならない。
もしかしたら本当に何もない、ただの気まぐれかもしれない。
だったら今のこの俺の時間は無駄ってことになる。
でも、何もないならそのほうが断然いい。
そして俺は時間が遅いことを理由にとりあえずメールするのは諦める。
電気を消して、またベッドに転がった。
「なんだろうな、ほんとに」
呟いても誰もいない部屋、すぐに静まり返る部屋。
目を閉じてもなかなか落ち着かなくて、それでもきっといつの間にか寝てしまう。
あいつが目の前にいる。俺は声をかけようとして、体が動かないことに気付く。
口も開かない。声も出ない。
あいつは俺に背を向けている。あいつは何かを持っている。銀色の重たそうなもの。冷たく光る、それは拳銃。
ぎこちない動作であいつが両手で拳銃を構える。ぼんやりと、あいつの正面に誰かが見える。誰かはわからない。ただ何かが鈍く光ったから、きっと相手も拳銃を持っているのだと思った。
思い出す。これはきっと、ゲームの記憶だ。
この場面を俺は知っている。
あいつは俺に背中を向けているのに、なぜか泣いているのだとわかった。
動かないこの体が憎かった。
泣くのなら、そんなに辛いのなら、どうにかして俺が代わってやりたかった。
この体が動くなら、後ろからあいつを殴ってやりたい。そんな顔して拳銃なんか握るなよ。そんなにいやなら、悲しいのなら、そんな重たいものは捨てちまえよ。
でも実際は体も口も動かないから、俺はただ見ていることしか出来ない。
ほんとは代わってやりたかった。
何のゲームか知らないけど、そんなゲームをあいつにさせたやつも殴ってやりたくて握りこんだ掌が熱かった。
それこそ殴りあいでもすればいい。勝負がしたいならそれで十分だろ。
なんで、ゲームに拳銃なんて持ち出すんだよ。
体も口も動かないのに目だけは自由だった。横目でちらりと、シキが見えた。シキも動けないようだった。そして、悲しそうな顔でネクを見ていた。
ネクは腕を下ろす。それはゲームの負けを意味していたのに、俺はひどく安心した。
ゲームでも何でも、ネクが誰かを撃つところなんか見たくなかった。
もしかしたらこれが本音なのかもしれない。
そして乾いた音。まるでおもちゃみたいに下らない音が、発砲音だとはネクが倒れこんでからようやくわかった。
相手が何かを言っている、音は聞こえなきけれど唇が動いている。
音が聞こえない、物が見えない。たった一つ自由になっていた視界が白くぼやけていく。
ネクが、見えなくなる。
そのとき俺は、きっと叫びたかった。
目を開いてみれば飛び込んでくるのは見慣れた模様の壁で、それが天井だと気付いて、聞こえてくる声がライムだと気付くまでにはさらに時間がかかった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん? 起きてる」
「う、ん」
ベッドから起き上がる。多少からだがふらついて、ドアを開ける前に二回頭を振った。
「今起きた。どうした?」
「え、っと。そろそろ行ったほうがいいのかな、って」
「は、」
しばらくライムが何を言ってるのかがわからなくて、たっぷり10秒は停止して、それから枕元の目覚まし時計に飛びついた。
「うわわっ」
「えっと、シキちゃんに連絡しとこうか? ちょっと遅れるかもって」
「いやほらお前先行けよ」
「え? でも……ううん、いっしょに行くよ」
「待たせると悪いから、お前だけでも先に行けって」
「でも……」
「ほら、俺だったらダッシュで追いつくから!」
少し悩んだ後、ライムが頷いてくれて俺は安心した。
じゃあ先行くね、怪我しないでね、無理しないでね、という有難い言葉を聴きつつ俺はドアを閉めて慌てて身支度を始める。
そういえばいろんなことがあったよなぁ、と着替えながらついついぼんやり思ってしまった。
あのゲームの結末は俺には難しすぎてよくわかってない。
どうして俺が、そしてゲームに負けたはずのライムまで、生き返ることが出来たのかが全くわからない。
でも二人で生き返れたんだから、今度こそ、俺はライムを守りたいと思う。守りきってやりたいと思う。
そしてそれはライムだけじゃない。あのゲームをいっしょに乗り越えたシキもネクも同じだ。
そういえば死神たちはどうなったのだろうか。
少しの間とはいえ、仲間だった。仲間になった。
やり方が気に入らなかったとはいえ、消えてしまえとまで思ったことはなかった。
例えばアメ玉にピンク頭、鉄化面にヘビの野郎も。
あいつらはどうなったのだろう。やっぱり消えてしまったのだろうか。それとも俺みたいによくわからないけどまだ生きていて、まだあいつらは、UGで死神のゲームなんてものをやっているのだろうか。
わからない。確かめようがないし、確かめるためにもう一度死んでみようとも思わないけど。
なんとなく、あの夏のように今も変わらず、あのメンバーでゲームをしていればいいと思った。
それなら死ぬのもあまり怖くはないかもしれない。
死にたくはないけれど。だから今を全力で生きるけど。
それでもいつかもしも死んだとき。
そのときは、またあいつらとゲームができればいいと思う。
どうなのだろう。
どうなったんだろう。
「……やっば!」
そんなことをぼやぼや考えているうち、いよいよ時間がぎりぎりになってきて俺は仕方なく朝メシをあきらめて家を飛び出す。
もう待ち合わせ場所には全員来てるのだろうか。
だったらみんなで笑ってりゃいいな。それだけ思って、暑い陽射しの下を必死に駆け抜ける。
俺がついたときにはまだライムとシキしかいなかった。
ライムが買ってきてくれたペットボトルのお茶を勢いよく飲む。シキとライムは何かを楽しそうに話している。
ちらりと見上げた空に相変わらず眩しい太陽があって目がちかちかとおかしくなる。
目をつぶってみても光が焼きついていて離れない。
立ちくらみみたいに少し痛んだから、目を瞑ったまま軽く目頭をもんでみた。
「どうした?」
聞きなれた声に、目を開けて確認するより早く腕を伸ばして捕まえて、ぐりぐりと頭に拳骨を当てた。
「お前が、呼んだくせに一番最後に来てどうすんだよ!」
「痛、ちょ、まだ時間じゃないだろ!?」
こっちに気付いたライムが止めに入るのを待ってから、俺はネクを離してやる。
「で、今日はなんかあるのか?」
ネクが、すごく複雑そうな顔をした。
そんな複雑そうなのに、それでも笑っているとわかる表情で笑ってみせた。
*
5、(side BEAT)
*****
サントラが素敵過ぎる件について。
一曲すごい、ああ、石元さんだなぁ、としみじみするようなアレンジがあった件について。
……まあ、それはちょこっとおいておくとして。
ビイトの照れ隠しがたまりません。好きです。この前も言ったけど。
ビイトだって何も考えてないようでいろいろと考えてるはず。
ただ感性が優先するから理解されにくいだけなんだ。
それにしてもエンディングの子供たちは誰も彼もかわいいと思う。
でもやっぱり一番はビイトではないでしょうか。あの絵でビイトの株がぐいんとあがりました。
あの絵のネクの表情もすっごいいいなぁ。ちゃんと子供の顔して笑ってる。
ペンダントを見せるライムに微笑むネクとか。ビイトに羽交い絞めにされて笑うネクとか。そのときのビイトの表情とか。
シキが来て、みんなでハイタッチとかも。
エンディング絵は本当にもうどれもこれも素敵で胸にぐっと来る。順番なんか決められない。
そろそろお分かりかもしれませんが、このお話はやっぱり一週間が目安です。あと、二日。
080731