待ち合わせで人を待たせるのが苦手な私は、だいたい15分くらい前を目指して到着するようにしてる。
人を待たせるくらいなら、待っていたほうがいいと思う。だってそのほうが余裕もできるし、相手が今日はどんな服装で来るのか、最初に声をかけるとき、どんな表情を返してくれるのか。他にも、今日はどこで何をするのか、どんな一日になるのか、そんなことを考えてればわくわくするし、時間がたつのもあっという間だから。
でもその努力は、残念ながら今回の集まりでは実らない。
どんなに余裕を持ってきても、大体ライムとビイトには負けてしまうから。どれくらい前に来てるのかわからないけど二人はいつも早い。
今日だって待ち合わせにはまだ時間があったけど、ハチ公前に行ってみたらもうライムが来てた。ビイトはいなかった。あれ、と思ってそれでも声をかけたらぎゅっと抱きつかれる。
こういうことはめずらしくない。ライムは会って最初にいつでも抱きついてくるし、それこそなんだか妹でも出来たみたいでかわいくて、ついつい頭をなでてみたりなんかして。
そうするとライムがうれしそうにするのを私は知っている。
そして、つられて私もうれしくなるのも。
しばらくそうして二人で笑い合って、それからビイトはどうしたの、と聞いてみる。
答えは寝坊という、いたってシンプルなものだった。

「だからボクだけ、先に来たんだよ。いっしょに行こうよって言ったけど、待たせると悪いから先に行けって」
「そうなんだ、じゃあ、ビイトは遅刻?」
「たぶんお兄ちゃんのことだから、走って来るから間に合うとは思うんだけど」
「ああ、わかるわかる、そうかも! 絶対間に合うよ!」

即座にその様子が想像できて、ちょっと笑ってしまった。
ビイトは礼儀正しいし、待ち合わせで人を待たせるとか、そういうことが嫌いみたいだ。
だから毎回待ち合わせ場所には、ライムとビイトがいっしょに一番に来る。次は半々で、私だったりネクだったり。

「それにしてもめずらしいね、ビイトが待ち合わせで寝坊とか」
「もしかしたら昨日なかなか寝付けなかったのかも」
「え? なんで?」
「うーん、ちょっと、ネク君のこと心配してたみたいだし」
「ネク?」
「うん」

そこでライムは、くすりと控えめに笑った。

「ネク君から集まろうって誘ったの、初めてでしょう? だから、何かあるのかな、もしかしたら悩みでもあるのかな、って話に昨日なって」
「ああ」

くす、と私も笑ってしまう。
その様子だって簡単に想像できたからだ。
ビイトはなぜだか悪ぶるけれど、自然体でやさしい人だと知っている。それを照れて隠そうとするのに、全然隠せていないことも知っている。私だけじゃない、ライムも、そしてネクだってきっと知っている。
ビイトは自然体でやさしい人だ。
思ったらくすくすと笑いが止まらない。

「悪ぃ待たせた!! っておいおい、ネクはまだ来てねぇのか? ……何二人で笑ってんだ?」
「なんでもないよ」

それからタイミング良くやってきたビイトは少しだけ息が弾んでいて、額に汗が浮いていた。慌ててきたんだろうなって、そのことが伝わってきて思わずライムと声が被った。
ビイトは不思議そうな顔をして、襟口を引っ張ってはたはたと仰いでいる。

「まだ時間までちょっとあるからね。何か飲む?」
「うー、頼む」
「待っててね」

ライムはぱたぱたと小走りに人ごみに紛れてしまう。
何となく、私はビイトと並んでその辺の壁にもたれて立ってみる。
ビイトは大きくため息をしてからその場にしゃがみこんだ。

「だー……疲れた」
「昨日、眠れなかったの?」
「ばっ!!」

なんだろう。なんて言いたかったのかはわからないけど、勢いよく私のほうに顔を向けたビイトは真っ赤で、なんだか私のほうこそ照れてしまう。

「いや、ほら、ビイトが寝坊なんてめずらしいしね。そうだ、めずらしいって言ったら、ネクから誘ってきたのもめずらしいし」
「ああ、うん、まあそうだよな」
「うん、そうだよ」

そこで、何となく沈黙。
沈黙というよりは、何かを考えているような、間。
ビイトはどうかはわからないけど、少なくともわたしは考えていた。
そういえば去年みたいにゲームの最中だったら、ビイトの考えが読めたのかな、って。
そこで思い出したけれど確か参加者同士のスキャンは出来なくて、するとどちらにしろ私にはビイトの考えがわからないことになる。
でも別にいいかな、とも思っていた。
ビイトの考えていることなら、一生懸命考えて、想像することができる。どうしてもわからなかったら、直接聞くことだってできるから。
次に考えたのはエリのことだった。
話をすることが多くなった、と思う。
あのゲーム以来、もっともっと、話すことがたくさん増えたと思う。
服作りのこと、デザイン、縫製、それだけじゃない、他にも例えば私がどうしたいのか、どう思っているのか、伝えることが増えたと思う。
そうしてみてようやく気付いたけれど、エリは、前からずっと自分はどうしたいのか、そして私に対してどう思っているのか、それをきちんと伝えてくれていたということだ。
今までわたしはエリの何を見て、何を聞いていたのだろうと恥ずかしくなった。
そしてそんなエリにふさわしい自分でいたいと強く思った。
今はまだ、がんばってる途中。
そして私は、そんな自分代わりと好きだ。
がんばってる。けど無理はしてない。
そんな自分が、割と好き。
胸がほうっと、安心するようにあたたかくなる。

「何かあるなら、言ってくれたらいいね」
「だな」

ネクも、何かあるなら言ってくれればいいと思う。
でもそれを私はきっと期待はしないと思う。ただ、待ってる。
話したいなら話して。私は聞くよ。
そうじゃなくても、私は何も言わない。
私から聞いたりはしない。期待もしない。
ただもしも呼び止めるなら、ネクのために、私は立ち止まりたいと思う。
なんて、これってもしかしたら冷たいのかな。
でも見たらビイトがちょっと笑ってため息をついたから、もしかしたらおんなじ気持ちかもしれないと思って少しうれしくなって、それでいいような気がしてしまった。
どうかな。薄情なのかな。
でも私はできる限りネクの力になりたいと思ってる。
ネクだけじゃない、ビイトが困っていてもライムが困っていても、力になりたいと思っている。
このことだけを見失わなければいいのだと、私は思っている。

「お待たせ。適当にお茶にしちゃったけど、良かった?」
「おう、サンキュ」

ライムもビイトも笑い合っている。
それなら、それが一番いいのだと、私もほんのりと幸せを感じている。





*
4、(side SIKI)





*****
本編シキの最初の頃、例えばネクに対してヘッドフォン失礼だよ、とか言ったところなどで、もしかしたらシキはシキなりにエリになろうと真似をしていろいろと無理をしてたのかな、と思うと少し切なくなります。
たぶん普段のシキなら、そう強くは言わないのではないのかな、と。
それならあそこであえて強くネクに注意したのは、シキなりにエリだったらこういう、というのを想像して、がんばってたのかな、と。
そうなるとネクが怒ったのは、シキにとってはかなりきつかったんじゃないかな、と。
それと同じような状況が初期の頃にはたくさん見られます。しかも相手がネクとか、最初からハードルが高いよ。
だからあのゲームの中で、初期のシキが一番無理をしていたように思います。
そしてその無理の仕方が、ちょっとだけ悲しく感じられる。
だからこそエンディングの、シキの本当の姿での笑顔が、すごく響いてくるのですが。

そして私の中でビイトが物凄い萌えキャラになってきている。なんでしょうあのツンデレは。
隠そうとしてるのに、隠せてない、バレバレ、ってのがたまらない。もう。



080730