昨日突然ネク君から送られてきたメールはいつもみたいに集まろうという内容で、特に予定のなかったボクもお兄ちゃんも、それぞれいいよと返信をした。

「でも、めずらしいよな」
「ネク君から誘ってくるのが?」
「そう、そうそうそれ。あれだよな、いつもはシキからメール来るから」
「うーん、何かあったのかな」
「だったら言ってくれりゃあいいのに」
「明日直接話したいのかもしれないよ」
「でもよー、先に言ってくれればなんかできるかもしれないしよー」

ぶつぶつと何かを呟いているお兄ちゃんに、やっぱり優しいよね、いろいろ心配して、とは心の中だけで呟いておく。言うと、猛烈に否定されるのはわかっているから。
別に隠さなくてもいいのにな。そうは思うけど、やっぱりこれも言わないでおく。

ネク君が話したいかもしれないことは、死神のゲームのことかもしれないね。

それも思いついたけど、やっぱりお兄ちゃんには言わないで代わりにおやすみを伝えて部屋に向かった。

「ちょうど去年の今頃だった、のかな?」

ベッドに横になって瞼を閉じる直前、呟いてみたけれどあまりに現実味がなくてどうしたらいいかわからなくなってしまった。



死神のゲーム。
ボクとお兄ちゃんが、そしてシキちゃんと、ネク君が巻き込まれたゲーム。
ほんとのことを言うと、ボクはそのゲームのことをあまり良く覚えてない。ただ話を聞いたりして、ぱっと頭の中にひらめいた断片の映像だけがボクの中のゲームの記憶。
ゲームの中でお前俺のこと忘れてたんだぜ。
そういったお兄ちゃんは笑ってたけど、ぱっとひらめいたお兄ちゃんの顔はとても悲しそうなものだったから、そのとき、どうしようもない気持ちになってぎゅっと抱きついた。
ごめんね、っていえれば楽だったかもしれない。
けどそこでごめんね、っていうのは、なんだか卑怯なような気がした。
だからただぎゅって抱きついて、そしたらお兄ちゃんはやさしく頭をなでてくれて、ますますどうしようもなくなって。
思い出せることが、ボクにはあまりに少なかった。
ただお兄ちゃんの話を聞いて、お兄ちゃんの表情を見れば、いろんなことがあったんだなって、それだけはぼんやりとだけど伝わってきた。
夢は、って聞かれて、答えられなかった。
あれって変な気持ちになった。
きちんと大事にしまっておいたはずのものが、確かめてみたらどこにもない。
大切にしまっておいた宝箱が空っぽだった。
そんな、あるべきところにあるべきものがない、変に空っぽな感覚に混乱したとき、また、お兄ちゃんが頭をなでてくれた。
いいんだ、って笑って。
思い出せなくても、なくしたんだとしても、いつか思い出せるし見つかるからって。
もしかしたらこの先、もっといいものを見つけられるかもしれないから、って。
だからあの時ボクは、悲しくって、うれしかった。

「ありがとう」

そのときは、ちゃんと伝えられたっけ。
忘れてしまったから、明日朝起きたらまずそう伝えようと思って、本格的にボクは眠ろうと思考を沈めた。
明日はみんなで待ち合わせ。
いつもみたいに、ハチ公前で待ち合わせ。





ぐるり、と見回せば人、人、人、人ばっかで、ただただ不思議だなぁって思ってる。
不思議だなぁ。こんなに人がいっぱいいるのに。そんないっぱいの人ごみの中にボクは確かにここにいる。
不思議だなぁ。何でこんなにいっぱいいるのに、それぞれ確かに違う個体なんだろう。
でももしかしたら水にたらした油みたいに、ボクだけがこの人ごみの中、たった一つの異物なのかもしれない。
だからボクには周りの人の考えていることはわからない。
だけどもしかしたら、他のみんなはおんなじ思考を共有しているのかもしれない。
なんて、これはきっとただの妄想。
僕はそんな妄想を抱えてひとり、流動する人ごみの中でそっと立ち止まって、ゆったりと呼吸を繰り返して目を閉じる。
瞼に透ける赤色が陽射しの強さを表して鮮やかで。
あっついね。となりには誰もいないのにまるで同意でも求めるみたいにわざとらしく呟いてみて、手のひらで影を作って目元をかばいながらうっすらと目を開いた。
やっぱり、陽射しが強すぎて一瞬で涙がじわりとにじむ。

「おーい」

その涙だって瞬きをすればどこかに行ってしまう。
今、何かが悲しかった気がするのに、それだって一瞬で消えちゃうんだ。
あと、きっと3秒くらい。
肩を軽くぽん、とたたく、優しい感触できっとボクはうれしくなるよ。

「久しぶり! えっと、まだライムひとり?」
「うん」

振り向く先には、思い描いたとおりの優しい笑顔。
シキちゃんは本当に優しいと思う。
なぜだかわからないけれども、こういう何でもない、特別に何かをしてもらったわけでもない、そんなときに限って強く感じる。
目の前にいる人は、やさしい人。
それはもしかしたら視線なのかもしれない。
目の前にいる人は、優しくって、強い人。
そんな人が目の前にいるのがすっごいうれしくって、奇跡みたいで、どうしようもなくなってそんな大きく膨れ上がった気持ちを表現する方法なんていっこしか知らなくて、ぎゅ、と腕をいっぱい伸ばして、シキちゃんをつかまえて抱きついてみる。
シキちゃんは驚いた声を弾ませて、それから控えめに笑っている。

「ライムって、意外に甘えたがるよね」

違うんだよ。甘えたいんじゃない、うれしいんだよ。
思いながら、ただただぎゅっと頬をすり寄せる。

こんなにたくさんの人がいるのに、ボクも、そしてシキちゃんも、もちろん周りのたくさんの人も、全部全部違う人。
でもだからこそこうやって抱きつくことができて、そしてボクはうれしくなるから、だったらもう、違う個体で構わない。

「……なんて、ね」
「うん? なになに、どうしたの?」
「ちょっとだけ、考え事」

そんな漠然とした妄想じみたことを、そういえばあの死神のゲームが終わってから良く考えるようになった気がする。
もしかしたらいつかこんな考えも、話して聞かせられる日も来るかもしれない。
今はまだ妄想でしかないし、何となくのイメージだからボクの感じているこの気持ちを説明するのは難しいと思う。
でももしかしたらこの先、この気持ちを共有できる日が来るかもしれない。
言葉で話して説明すれば、もしかしたら。
そう考えただけで、なんだか救われたような気持ちになってくる。
だから名残惜しかったけれど腕を解いて離れた。
代わりに視線を繋いで、そしたら自然に笑顔になった。

「久しぶり」

胸が弾むみたいに軽くてなんだか楽しい気分だ。





*
3、(side RHYME)





*****
ライムはかわいいと思う。黒いイメージもあるかもだけどやっぱり子供たちの中では年下なんだし、やっぱりかわいいよ。
というかビイトとライムは同じ屋根の下なのですね。なんか兄妹っていいですね。
理想としては、ビイトの散らかしたものをライムがひとつずつ拾っていくような。学校のプリントも、なくしたと思ったらライムが見つけてきてくれるんだよ。
仲がいいことはいいことだよね。

それにしても、な、なんでこう、だらだらと書いてしまうのか……。
本気で構成力がほしいです。修行しようか。でもどうやって。



080729