♯ 死神あそび(狩谷と八代)
狩谷と八代はやることもなく、二人でサンシャインに入った。
「あ、今の、参加者よね」
「んー、そうみたいダネ」
ぼんやりと頬杖をつき、注文したコーラをすすりながら八代は外を眺めている。たまに視線が動くものだから、何かと思って確認すればその先にいるのはゲームの参加者だった。無意識だろうが、八代はガラス窓一枚隔てた向こうの、参加者の姿を追っている。
その間ずっと狩谷は八代を見ているのだが、八代はそのことには気付かないようだった。
負けん気の強い彼女は、今は覇気のない表情だ。元気がないといえるかもしれない。理由はわかっている。仕事がないからだ。そんなに仕事っていいものかね、と狩谷は呆れに近い感情を抱く。少なくとも狩谷は、休暇に近い現状を歓迎しているし、常識の外側を突き進んでいく今回のゲームマスターの手並みを楽しみにしているのだが、八代はそのやり方が気に入らないようだった。
「いいわよねー、うらやましいわ。あたしもゲームしたいわー」
そして、ため息。今にもテーブルに突っ伏しそうなくらいだらけた雰囲気をまとっている。
八代は少し、いやかなり、自分に正直だ。
そして、素直。
ほほえましく思い、狩谷はコーラを飲み切って唇をなめた。
「じゃあ、ゲームでもしますカ?」
「え?」
のろのろと八代が狩谷の方を向く。狩谷はわざとのんびりとアメ玉を取り出し封を破く。ふと八代と視線を合わせ、口の端を吊り上げた。
「そーう、いつものように勝ったらラーメンってコトデ。ゲームは、死神あそびのどれでもいいヨ」
「ゲームねぇ……」
「ゲームなんて自分で作ればイイ。そうデショウ?」
「うーん、……」
狩谷はアメ玉を口に運ぶ。八代は何事かを考えていたようだったが、おもむろに残りのコーラを全て飲み干し、先ほど狩谷がそうしたように唇をなめて、どこか挑発的に笑った。
「そう、そうよね。やっぱり自分から動かないとダメよね!」
「お? 元気デタ?」
「あたしはいつでも元気よ。そうね、じゃあ4の、鬼ごっこでどう?」
「なんでもいいヨ。じゃあ、鬼は卯月デ?」
「別にいいわよ。絶対につかまえてあげるから☆」
「おーおー、言うネー」
狩谷は身軽にイスから立ち上がり、紙コップをゴミ箱を見もせずに放る。紙コップはそのまま、吸い込まれるようにしてゴミ箱へと落ちる。
「じゃあ、10カウント、ちゃんとするんダゾ」
「言われなくても。いいからとっとと逃げなさいよ。今日こそはあんたにラーメンおごらせるからね」
「つかまえられたらネ」
ひらひら手を振って店を出て行く後ろ姿を見送り、八代はノイズ使うのはありかしら、とか、どこに罠を仕掛けよう、とかを考え始めた。
*
二回目のゲーム中に。
*****
この二人の関係が好き。
ミナミモト派の狩谷さんとコニシ派の八代さんとか。
八代はミナミモト嫌いっぽいけど狩谷はコニシさん嫌いそうですね(おもしろいな)。
何を書きたいのか、いまだに模索中です難しい。
070824
♯ 享楽主義者(南師と狩谷)
昼を過ぎた時間帯、ゲームセンターは閑散としている。
多くの画面がデモを延々と流し続ける中、南師と狩谷は隣り合って並ぶ同じゲームにそれぞれ興じていた。
南師はいつもの攻撃的な笑みを口元にそえて、対して狩谷はおだやかな飄々とした表情で。
音量の大きいBGMと効果音の合間をぬって会話は交わされる。両者とも、視線は画面に固定されて動かない。
「俺んとこに幹部入りの話きたぜ」
「へーェ。それはそれは。おめでとサン」
「お前にもあったんだろ?」
「ないヨ」
「嘘だろ」
南師の勝利を告げる音声が入る。遅れて狩谷も。台詞が流れて、次のステージ。
だんだん、と乱暴に南師はボタンを叩く。適当なリズムをつけて、演奏でもするようにボタンを押していくのが狩谷。
しばらくの空白の後、狩谷が口を開く。
「どうしてそう思うのサ」
「お前の実力なら、当然だろ」
「ショウの方が断然強いヨ」
「コニシさん、に聞いた」
「ナルホド」
再び台詞が流れ、BGMが変わる。今度は二人とも同時にボス戦になる。
南師はどこまでも不敵に大胆に笑う。
狩谷は落ち着いた雰囲気を乱さない。
「なあ、お前も幹部になれよ。俺はコンポーザーになるけど、したらお前が指揮者だ」
左からの刺さるような気配に狩谷は横目でそちらを見る。
南師が、同じように視線を流して狩谷を見ていた。
言葉は騒がしい空間において、奇妙な確かさを持って狩谷に届く。
「いっしょに俺たちのシブヤを作る」
断定で語られる未来は心地良かった。
気持ちが揺れなかったといえば嘘になる。
狩谷は画面に視線を戻して言葉を考える。
南師の示す未来は魅力的だ。興味深い。
そしてそれは、決して夢物語などではないのだ。
狩谷は南師を評価している。
能力を、実力を、望みの強さを、知っている。
南師なら、彼の見ている高みにいつか届くかもしれない。不可能ではない。
それを今のように、隣りで見ているのはきっと楽しいだろう。
けれど狩谷は、同時に狩谷自身の能力も、望みも、知っている。
「俺は、ならないヨ」
BGMと効果音よりも、不自然な沈黙のほうが耳に痛かった。
狩谷は静かにつなげる。
「俺は、まだこの場所からシブヤを見てたいカラ」
返ってきたのは、ふうん、という気のない呟きだった。
勢いをつけて南師が席を立つ。
遅れて狩谷も。
真正面に向かい合って、笑い合う。
やはり南師はどこまでも不敵に。
狩谷はただおだやかに。
「ゴメンネ」
「はっ! 後悔したって知らないぜ?」
「うん、覚悟しとくヨ」
南師はあとはもう何も言わずに狩谷を残して去っていく。
狩谷は画面を見る。
南師の画面にはWIN。
そして、狩谷の画面には。
「俺は、最後で甘いカラ」
自嘲めいた呟きを残し、狩谷もゲームセンターをあとにする。
携帯電話を引っ張り出して、コールを三回。
やがてこぼれてくる威勢のいい声に、先ほどとはまた違った笑みを浮かべる。
そして誰もいなくなったゲームセンターで多くの画面がデモを延々と流し続ける中、一台のゲーム機が、GAMEOVERの文字を躍らせていた。
*****
今回はミナミーとカリーになりましたね。
書きたかったのはきっとミナミーをショウと呼ぶカリーです。
あとゲーセンで遊ぶ二人。
二人がやってるのがぷよぷよだったら和みますね。
格ゲーが妥当かも。ギターマニアでもいい。かな?
070917